霜月という名前の頃合いの、深まりゆく秋を最も感じさせるのは。夜陰のその冷たさ 素っ気なさではなかろうか。それまではまだどこか心地いいという範疇にあった夜風が一転、あっと言う間に落ちた陽を嘆くのか。羽織るものなしには居られぬような、突っ慳貪な態度を強め。それがせいでか、温かいものが恋しくなったり。いっそのことというのも何だが、好いたらしいお人と身を寄せ合うことの至福、しみじみと思い知ってのありがたいなぁと……思えるところまで進展していない諸兄には。人恋しいこの季節が本格的な冬を迎えるその前に、とっとと連れ合い見つけて来いよと聞こえなくもない。余計なお世話な風籟が、どこか遠くで唸るばかりの、人っ子ひとり見当たらぬ、静かな静かな夜更けの底で。
「たかが町人の岡っ引き風情と、侮るものじゃあないなぁ。」
おおお、居ました、人がいましたよ。夜風こそ吹かぬがその代わり、柳も凍りそうな夜気の垂れ込める、今宵はまた格別な冷え込みようだってのに。なんてまあ物好きなお人らが、ひぃのふぅの十人近く。川というより、お堀の縁か。道から石段にて数尺ほど下がったところに開けた空間、小さめの広っぱのような空き地に立って。いずれもむさくるしいお顔をぎりりと堅く強ばらせ、薄暗がりの中で足並み揃えておいでの模様。擦り切れた下生えに草履の足元を擦りながらの、なかなかな足運びでじりじりと、どうやら とある人物を包囲にかかっているらしく、
「よくもこの企みに、お前のような小者が気づいたものよ。」
どの手合いも、その身なりこそ尾羽打ち枯らした浪人風の、くたびれたいで立ちを装っているが。それぞれの手へ抜き放った刀は、質に入れるにゃ勿体ないだろう名のありそうな、なかなかに切れ味も善さそうな本身の真剣だったし。何より、その腰の座りようや身にまとった気配に、生まれついての浪人でござい…と言うには無理がありそな、揮発性の高さが仄見えて。その中でも最も権高な態度でおいでの頭目格、頬のそげ落ちた、痩せた鷹のような顔立ちの男が、皆を代表してということか、先程から滔々と、何やらもっともらしいことを語り続けておいで。
「昇泉屋は、我らが殿への献上金を拒んだ愚か者。
これを誅せずは、亡き殿への面目が立たぬ。」
すぐ間近の土手の上に居並ぶ商家の蔵への、荷の搬入に勝手がいいようにと設けられたる、小さな桟橋の傍らという位置でもあり。話の成り行きから慮みて、彼らの言う“昇泉屋”というのの、此処は すぐ裏手に当たるのだろうと思われたが、
「…それが一体どうしたってんだ。」
風の向こう側から低められた声がして、浪人もどきらの囲いつつあった人物が、足元、薄べったくなった冷やめし草履を、ざりと鳴らして身構えに入る。今のお声は、どうやら、こちらの浪人もどきに取り囲まれつつあった、小柄なお人からの返事であるらしく。少しばかり伏せられ気味にされた、そのお顔の陰から放たれたもの。だっていうのに、芯の通った、頼もしき声音のそれであり。
「さっきから訊いてりゃあ、
お前ぇらの手の込んだ企みを、
この俺が調べに調べて突き止めたような
そんなご大層な言いようをしているが。」
夜陰の中へと浸っているためか、その輪郭が曖昧で。小柄な彼の体格も、ずんと小さく見えなかないが。はぁあと いかにもな溜息こぼしたその様相は、こちら側の面々へ、いかにもなこれみよがしに映ったほど、そりゃあきっぱりした強気の態度であり。それもそのはず、
「言っておくが、俺はただ通りかかっただけだ。」
目許は座り、口許もその端っこが思い切り垂れ下がっての、何を情けないことを大威張りで言うとるかなと。俺が身内だったら、恥ずかしくって聞いてられないぞと言わんばかりの、何と言いましょうか、そうそう 呆れ顔。
「……………え?」
これまで、ちぃ抜かった、こんな姑息な奴が我らを見張っていようとはとか何とか、堂に入った言い回しを、ぺらぺらと並べ立てての振り回していた男が、はい?と呆気に取られたお顔がまた。いい大人のするようなそれじゃあないだろほど、間が抜けていたものだから。惚けてしまったそこへと言うのも面映ゆいがと、自分の頬をほりほりと指先で掻きもって、
「こんな夜更けに、川べりでこんなだけの頭数がもそもそしてりゃあ、
岡っ引きとしちゃ見逃せねえ。
そんでって声かけただけだっての。」
「あ…………。」
「だってのによ。
そんな余計な話を聞いちゃあ、
いくら物知らずな俺でも 帰るに帰れなくなっちまっただろうが。」
「な…っ。」
あんまり世情とか融通とか、お武家の仁義や道理とかには詳しくないこちらの親分さんだが。そんなお人でも、さっき聞かされた“企み”とか“誅す”とかいう、物騒な言い回しは何とか理解も出来ようもの。おまけに自分へと向いた何本もの刀の楯と来ちゃあ、ただ単に穏便な説教で済ますつもりじゃあないなというのも、自づと知れるというもので。
「もしかして馬鹿だろ、お前ら。」
「〜〜〜〜〜。//////」
人は図星を差されると、その屈辱の痛さから逃れるために怒ると言います。勝手に先回りをして要らんことをばベラベラと並べてしまった頭目殿。夜目にもくっきり見分けがつくほど。顔といわず、耳といわず、月代といわず、首といわず、見えてるところのどこもかしこも真っ赤に茹だらせると、それでもなけなしの沽券(こけん)とやらを持って来たらしく。
「ならば、お前のこの行動、
仲間うちの誰にも気づかれてはおらぬということだな。」
「夜回りに出たってことならウソップが知ってっけどな。」
「なれば話は早い。」
「お〜い、人の話を聞いてっか?」
「ここでお主が喋れなくなれば、
我らの志し、誰にも伝わらぬということよ。」
「失敬だな、
俺は何でもかんでも、何処なと行っては触れて回るほど、
お喋りじゃねぇわい。」
やっぱり完全に話がすれ違ってる双方で。
「どう見ても、
浪人の鷹おとこさんは故意に聞こえてない振りしてるわね。」
「だろうよな。」
問題の昇泉屋さんの蔵の上、瓦屋根の上だというに、危なげなく立っている二人ほどが、こちらもまた呆れ返ったような心持ちのまま、眼下のやりとりを見守っておいでで。
「偉そうに言ってるが、あいつらの言う“亡き殿”ってのは。」
「ええ。藩主の跡取りだったけれど、
行状が悪いっていうので、
こちらの藩へ勉強という名目の謹慎を命じられてたご子息よ。」
「確か、あちこちの大店へ押しかけては、
世直しに加担せよとか持ちかけて念書を書かせ、
今度はそれをネタにゆすりを仕掛けと、
まあまあ半端ない小悪党ぶりを発揮してたんじゃあなかったか?」
「さすがは公儀隠密様ね。」
お小遣いが足りなくなったらしくって、こっちの藩でも同じことを懲りずにやり始めたものだから。国元への忠告が飛んで、そのご子息、とうとう勘当されたんですってね…と。そっちの采配振るったのはあなたの管轄じゃあないのという、訊きようをする女性へ向けて、
「…まぁな。」
もっとも処断したのは上の人間だが。そんな風に付け足してから、
「ありゃあこの藩に置き去り同然にされた取り巻き連中だ。
こうなったのも、そこの“昇泉屋”がチクったからだとでも思ってやがるんだろさ。」
「恐喝に動じなかっただけのことなのに?」
ああいう馬鹿どもは、世の中の人間全員が自分らと物差しも価値観も一緒だと思ってやがるからなぁ。短く刈られた緑頭を、大きな手のひらでわさわさと掻き回している、雲水姿の坊様へ、
「……で? どうするの?」
「〜〜〜〜〜〜。」
ロビンさんが訊いたのは“加勢”の話。今のところは親分優勢。何てったって場数が違う。相手は、それぞれが身をやつした ただの素浪人…以下の武家もどき。藩の名前だの武家の威光だの、実は他人の持ち物を笠に着て、威張りくさってただけの勘違い野郎どもだけに。
「でぇいぁっ。」
「たぁあっっ!」
一応はギラギラする本身の刀を手に手に握っているけれど。道場剣術さえ中途半端なそれらしい、一本調子なばかりの突っ掛かりようでは高も知れてる。十手しか持たない身ではあれ、こちらはこれまでにも様々な悪党を畳んで来た、百戦錬磨の麦ワラの親分だけに、物の数にも入らぬ雑魚もいいとこ、これほどの数がいようと、てんで敵じゃあない。振りかぶった刀をそのまま振り下ろすのが精一杯の、所謂“棒振り”では、やあと襲い掛かったのを躱されたらもはや終しまい。勢い余って遠ざかるその背中をちょいと押されりゃ、たたらを踏んでの つんのめるしかなくなる。また、刀に何も当たらぬまま振り抜くことになるので、
「たあっ。」
「おっと。」
下手を打てば、刀の重さに振り回されて、自分が怪我だってしかねない。日頃こうまでの切り結びを、実はやったことのない、慣れのない顔触れが混じっていたようで。ひらりと軽快に躱されたその結果、振り抜き損ねた切っ先が、選りにも選って仲間へ向かっていった手合いがやはり出て、
「あわわ、何をするか、藤十郎殿。」
「し、知らぬ。刀が勝手に…。」
「さてはその刀。呪われた妖刀か?」
そんなやり取りが出るに至っては、
“……やってろ。”(苦笑)
天真爛漫が売りの親分だって、さすがに呆れても来るというものだろう。そろそろ疲れて足がもつれても来ようから、怪我人を出す前に一気に叩いて回り、昏倒させて引っ括ってやろうかなと思っておったれば、
「しょうがない。せんせい、どうかお願いいたしますっ。」
鷹顔の男がそんな声を放ったので、
“…先生?”
ルフィのみならず、屋根の上の隠密二人もおやと息飲み、話の成り行き見つめると。物陰に隠れて待機していたらしいのが、柳の垂れ枝を縄のれんのように片手で掻き上げながら、望月の落とす光の溜まりへ のっそりと姿を現した。元は角力ででもあったのか、樽のような体格のでっぷり太った大男だが、腰に差してた大太刀を抜いたので、彼もまた刀使いのお武家ではあるらしく。
“まあ、戦国時代じゃあないのだから、刀を振れない武家もいようが。”
だからって、用心棒を…しかも彼もまた一本差しだから、もしかしたらこっちは本物の素浪人かも知れぬもの。雇って頼ってどうするかと、傍観していたお武家方面の関係者が、がくーっと肩を落としたのは言うまでもない。そんな見物があるなんて知りもしなかろ親分はと言えば、
「おっさん、その体じゃあ刀使うより素手のほうが強いんじゃねぇか?」
一応はそんな売り言葉を掛けつつも、これは歯ごたえがある相手だなと、腕をまくっての十手を構える。腰を落としたのは重量感のある攻勢に備えてのもの。その身の正面へとぐっと伸ばして力を込めた腕の先、水平から斜めに起こして支え、咄嗟に楯にも出来よう基本の据えよう。その手へともう一方の手を添えたは、これまた 相手がかなりの強力(ごうりき)と感じての配慮だったが、
「があぁああぁぁっっ!!」
「…っ!!」
いきなりの突然、大声で叫んだ相手のその第一声に、最も至近にいた親分が、びくくぅっと その肩を跳ね上げる。ほとんど反射的なそれで、別段怯んだわけじゃあなかったが、それでも、一瞬だけ後れを取ったは事実であり、
「でぇあっ!」
「つ…っ!」
その巨体との比較だと、玩具にしか見えないような大太刀が、ぶんと風を切って振り下ろされる。傍らと言ってもかなり離れたところ、川の縁に立っている柳が、ふわりと揺れたほどの風圧が生じ、がっきんと頭上に差し渡した十手で受け止めはしたルフィだったが、その足元は確実に何ミリか、土を押し込んでの沈んでもおり。
「な、何て力だ。」
やはり強力自慢であったようで、しかもしかも、
“刀の握りようが堂に入ってやがる。”
その手にあるのが棒じゃあなくて、鋼の、しかもよく切れる得物だという心得もちゃんとあるらしい人物であり。大きな手でぎりと握った握力と、その心持ちの絞りようが半端じゃない。隙をついて突き放すなんて、出来ようかという堅固な振り下ろしは絶品で。何とか一撃を食うのは止めたはいいが、身動きが取れぬは困ったことで。
「へっ、ようやっと止まりおったか。」
十人がかりの刃を軽快にかいくぐり続けたルフィだったのが、やっとのこと、二進も三進もいかなくなったものだから。その視野の中に現状認めた浪人どもが、何とか息をついての態勢を立ち直す構えが伺えもし。
「町人風情が、武家へと楯突くとは生意気な。」
身動きの取れぬをいいことに、横手から忌々しげな声を上げたは、やはりさっきの鷹顔の男であり。刀を片手もちにすると、何を思ったか片足を上げて、
「身の程をわきまえよっ。」
そのまま思い切り、両手の塞がったルフィを蹴りつけようと仕掛かったものだから、
「あら、大変。」
「…っ。」
紺地に百合の花柄流した、小粋な小袖をまとったロビンさんのすぐ傍らから。そんな彼女のの裳裾をゆらして、疾風が飛び立ったのは言うまでもなくて。そんなくらいはお見通しだった、この藩の隠密様の付け足した一言は、勿論のこと、
「…命知らずなことをするものね。」
下衆でお馬鹿な真似をしかかり、ますますのこと自分の株を下げた、鷹顔の侍くずれへの苦言であった。
◇◇◇
両手が塞がっているだけじゃあない、少しでも気を緩めたら最後、途轍もない圧で大太刀が容赦なく落ちて来るだろ、どうにも緊迫した状況だってのに。卑怯にもそんな親分の横手から、それだとて武家の所業とは思えぬ何処ぞかのチンピラのような真似、足で蹴りつけてやろうと構えた鷹顔の浪人男だったが。色んな意味から恥をかかされた腹いせにとはいえ、
「随分と勝手な意趣返しじゃあねぇのかな? そりゃあ。」
そんなお声とそれから、蹴り込んだ筈の足のふくらはぎを思い切り下から跳ね上げた衝撃とが、襲い掛かって来たものだから。
「ぎゃあぁああぁぁっっっ!!!」
相手が何物かが判っていての恐怖より、正体不明なものの方が数倍怖い。痛さが後から追いついたほどに、まずは心の臓が縮んで、喉の真下まで躍り上がったらしい鷹おとこ。地面へと尻から落ちてのずでんどうと転ばされたにもかかわらず、仰いだ空へ向け、ぎゃああと叫んで脚だけでのブリッジをし始める。何とか後ずさろうとしているのに、背中を預けているのが大地では、それ以上は下がりようがなくて。そのうち、力がうまいこと逃げたか、上へ上へとずり上がるように動き出したのがまた、
「袴はいたミズスマシだな、ありゃ。」
「うまいこと言うよな、親分。」
そんな重量級を受け止めてんのによと、錫杖一閃、卑怯者を薙ぎ払った坊様の合いの手へ、だははと笑ってから、
「さて、と。」
その不敵な口元を、ぎりと噛みしめ大男へと向き直る。こっちに手出しはすんじゃねぇぞと、言われるまでもなく判っている坊様であり。こちらもまた、そっちへの手出しはしねぇよと、言い出しもしないゾロだろとちゃんと承知な親分でもあるところなぞ。ほんの数年ほどしか、しかも飛び飛びのたまにだけの出会いしかない二人の、結んでいるそれとは到底思えぬ、相当に強固な以心伝心であり。
「親分さんは忙しいんでな。お前さんたちにゃこの愚僧がお相手しよう。」
「な…っ。」
今頃になって真っ赤に腫れ上がったふくらはぎが痛んだか、ぎゃあぎゃあと喚き出した頭目見下ろし、どうすりゃいいのかと戸惑うばかりな浪人相手。こりゃあ楽勝過ぎて却って酷だなと、そんな心情滲ませての苦笑を浮かべた雲水姿の虚無僧殿。さぞや恐ろしい迫力が籠もってもいたのだろう、あたふた逃げかかったものの、その全員が尻餅ついたままその場に萎えてしまったそうで。そして、
「どぉりゃあぁぁ………っっっ!!!」
親分さんの方も方で。その腕へとどくんと波打たせたゴムの波をば利用しての“ぎあ・せかんど”とかいう新技で、自分の総身が隠れてしまうほどの大柄な刺客、ていっと押し飛ばしての役人たまりにある牢屋まで。一気に夜空を吹き飛ばしてやったそうでございます。
◇◇◇
―― お武家といやあ、ゾロも元はお武家なんだもんな。
さささ、さあな、そんなこと言った覚えはねぇが。
うん。俺が勝手に気がついただけだっ。
そういえば、いつだったか、やっぱりよその藩から来ていたご子息巡っての騒動のおり、そんな仮説を並べてくれた親分だったような。あ、いやいや、違うか。あれは、妖しい儀式へと召喚されかかってた、骸骨さんのお話のときだったかしらねぇ?
「お武家様にも色んなのがいるもんだな。」
「…まあな。」
「威張り腐ってやがんのが、
ホントに腐ってやがるってのが、一番始末に負えねぇよな。」
「おお、何かうがったこと言ってねぇか?」
「そか? 裏店(うらだな)のご隠居が前にそんな話をしてたぞ?」
そういう言いようは、だが、ご政道への批判に当たろうから、あんまりあちこちで言い触らさない方が…と。ついついその職業柄、思ってしまった虚無僧様だったが、ああ、まあこの藩なら大丈夫かな? そうと思い直すと苦笑をこぼす。さっき自分でも、口が軽いほうじゃあないなんて言ってた親分さんだしねと。そっちへは別口の苦笑が止まらなくなりかけたゾロであり。
「? どした? 坊さん。」
「いいや、何でもねぇ。」
そっか? まだ少し怪訝そうなお顔をしていたものが、ふと、くああっと大きく欠伸をして見せた親分だったのは。思わぬ手ごわい相手との、力比べをしたことで、一気に眠気がやって来たものか。
「ほれ、親分。眠いなら長屋まで帰ろう。」
「ん〜〜〜、此処で寝る。」
「馬鹿。風邪ひいちまうだろうが。」
しょうがねぇなと、既に力が入らぬか、こちらへ凭れてくる小柄な肢体を、器用にも背中のほうへと導くと、
「ほれほれ。背中へ乗んな。」
「うん。」
ぴょこりと跳びはねた勢いも、何だか怪しい既に白河夜船というやつか。ゴムゴムの実を喰った余波か、餅のようにでれんとなっての、広い背中へすっかりと凭れ切ってしまった親分さんは、だが。眠そうにしていたくせして、うくくなんて含み笑いをしてみたり、坊様の首っ玉へと回した腕が落ち着きなくも踊ったり。そのまま寝ちまってもいいんだぜ? でもサ、そうするとゾロってとんでもないトコに行かないか?
「こないだも、こんな風に送ってもらったはずが、
気がついたら隣の藩への街道の、関所についてて引き留められてたしよ。」
「〜〜〜〜あれはだな。///////」
親分のところへ行くのへは迷わないけど、親分とどっか行くときには、出るらしいです、例のアレ。(笑)
「そんなでよくも、虚無僧なんてやってられるよな。」
「うう…。」
「もしかして、時々ゾロになかなか逢えないときがあんのは、
迷子になってるんじゃね?」
「うっせぇな。//////」
うくくと楽しそうに笑ってる親分さんだが、実は睡魔との壮絶な死闘の最中。眠ったらゾロってば、人に訊いてでも送ってってくれて。そこからまたぞろ、しばらくほど逢えなくなるかも。そんなのはヤだからと頑張っている心意気、何処まで通じているのやら。
“喧嘩の横取りはしないでいてくれんのにな。”
こっちの方はからっきしなんだからよと。そちらさんこそ、どっちの何のことを言ってる親分なやら。相変わらずの天然同士、やっぱりなかなか成就は遠そうな、二人だったりするようです。
―― あ、ゾロ。そういや今月が生まれ月だろ。
そうだったかな。
そうだった。ドルトンさんめっけて、ソバ食おう、ソバ。
なんでソバ。
お祝いじゃんかvv 奢っちゃるから覚悟しろよっ。
………ありがとな。
お月様も照れちゃう、そんな道行きになりそうです、はい。
〜Fine〜 09.11.12.
*二幕目は“ルフィ親分捕物帖”でした。
でも、こんなややこしいのが
TVの時代劇として成立するんだろうか?(笑)
第三幕に続く → ■**


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